映画『ラスベガスをぶっつぶせ』感想。変数変換クイズ(3つの扉クイズ)シーンの妙
2008年に公開された映画『ラスベガスをぶっつぶせ』の感想
映画『ラスベガスをぶっつぶせ(原題:21)』
ラスベガスをぶっつぶせ - YouTube
ラスベガスで実際に起きた、マサチューセッツ工科大学(MIT)の学生ジェフ・マーのブラックジャックのカードカウンティング事件という実話を題材にした映画です。
映画『ラスベガスをぶっつぶせ(原題:21)』感想
少しネタバレあり注意。映画を見た人向けかもしれません。
映画の序盤に「新車当てクイズゲーム(3つの扉クイズ)」が登場します。
これは物語の発端となる象徴的なシーンですが、数学にあまり馴染みの無い人には少し説明不足だったように思います。
クイズゲームシーンのやりとり。
教授がクイズの司会者役、学生ベン(主人公)がクイズの挑戦者役です。
教授「君は3つの扉からひとつ選べる。」(黒板を3つの扉に見立てる)
教授「ひとつの扉の裏には新車がある。」
教授「あと2つはヤギだ。」
教授「どの扉を選ぶ?」
学生「1番目です。」
教授「ベンは1番目を選んだ。」
教授「司会者はどの扉の裏に何があるか知っている。」
教授「その司会者が3番目の扉を開けた。」
教授「裏にはヤギがいた。」
教授「ベン、司会者がやってきた。」
教授「”1番のまま?2番に変えたい?”」
教授「さあ君は2番に変えたいかな?」
学生「はい。」
教授「待て。司会者は答えを知っている。わざと挑発してヤギを選ばそうとしてるかも?」
学生「僕は単純に統計で答えを出しただけです。」
学生「変数変換で。」
教授「簡単な質問に変数変換を?」
学生「すべて変わった。」
教授「つまり?」
学生「最初に選んだ扉は当たる確率が33.3%ある。」
学生「だが残る2つの扉のひとつが開いたので、もうひとつの扉の確率は66.7%になった。」
学生「だから当然2番目です。33.3%の上積みに感謝。」
教授「そのとおり。」
教授「いいかね、どれか分からない時は常に変数変換で考えろ。」
教授「普通は変えようとしない。」
教授「怖さや恐れや感情が入るからだ。」
教授「だがベンは感情を捨て、単純な数学で、ピカピカの新車をゲットした。」
教授「ヤギと歩くよりよほどいい。」
このやりとりで
「変数変換?ドアは3つでどれを選んでも当たる確率は3分の1でしょ。2つになったら2分の1でしょ?」
と困惑した人も多いはず。
はい。その混乱は正しいです。
変数変換において絶対必要な前提条件が提示されていないため、映画のセリフだけを材料に考えると泥沼に入ってしまいます。
本来あるべき条件のもとでは学生(ベン)の言う確率論は正しい。
前提ルール
1司会者は当たりの扉を知っている
2挑戦者は3つの扉からひとつ選ぶ
3選んだ後に司会者は残り2つの扉のうちひとつのハズレの扉を開ける
4挑戦者は扉を変更することが出来る
この前提条件なら変数変換が成り立ちます。繰り返しになりますが・・・
最初に指定した扉は当たりの扉の確率は3分の1。当たる確率は33.3%
司会者は残り2つのうち1つのハズレを開くと、当たる確率はもう一方の扉に移って66.6%になる。
ならば、扉を変えたほうが当たる確率は高くなります。
体感的に分かりにくいのなら扉の数を増やせば分かりやすいです。
前提ルール2
1司会者は当たりの扉を知っている
2挑戦者は100の扉からひとつ選ぶ
3選んだ後に司会者は残り99の扉のうち98のハズレの扉を開ける
4挑戦者は扉を変更することが出来る
最初に選択した扉が当たりの確率は100分の1。当たる確率は僅か1%
司会者は残り99つのうち98つのハズレを開くと、残った扉の当たる確率は99%になる。
これならば、どちらの扉を選べば当たる確率が高いか自明ですね。
映画でのクイズシーンの意味
しかしながら、前記の通り、映画中では前提条件が提示されていません。
前提ルールが提示されていないと言うことは、司会者が有利にゲームを進めている可能性があるわけです。
例えば、最初に選んだ扉がハズレなら、司会者はそのまま残念!ハズレですと言って終了させる。
もし、最初に選んだ扉が当たりだった場合、「こちらも選べますよ」とハズレに誘導することも出来ます。
この場合で選択を迫られた場合、挑戦者はこれは罠か、サービスか、番組を盛り上げるためのを演出か等、司会者との心理戦となり変数変換での確率計算は成り立ちません。
お互い暗黙のルールのもとでと言う前提の話とも推測できますが、映画的には重要ではないのです。
このシーンで最も重要な点は「主人公が感情よりも確率を躊躇なく選んだこと」にあります。
教授が主人公をブラックジャックギャンブルのメンバーに引き入れるか判断するための試験だったのです。
教授のセリフ
教授「いいかね、どれか分からない時は常に変数変換で考えろ。」
教授「普通は変えようとしない。」
教授「怖さや恐れや感情が入るからだ。」
教授「だがベンは感情を捨て、単純な数学で、ピカピカの新車をゲットした。」
教授「ヤギと歩くよりよほどいい。」
このやりとりは教授の「完璧主義者で確率論信奉者」と言う性格をよく表しています。
そして躊躇なく感情より確率論を選択した主人公を評価し、同士と認めたわけです。
教授はギャンブルのメンバーに加えた後も「感情左右されるな、勘に頼るな全ては確率で行動しろ」と何度も言い続けます。
そして主人公が感情的になり失敗した一度のミスで仲違いし、主人公から全てを奪います。(その執拗なまでの信念が身を滅ぼすわけですが。)
ちなみ3つの扉クイズは『モンティ・ホール問題』と言って大論争を呼んだ有名な話で、ウィキペディアに詳しくまとめられています。
以上、映画『ラスベガスをぶっつぶせ』の感想?・・・解説でした。
劇中のクイズシーンや確率論に注目して映画を見てみると新しい発見があるかもしれません。